このたび内閣府が主導する「ムーンショット型研究開発制度」(我が国発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発) に本採択されました。
ムーンショットプログラム全体については下記を参照ください。
ムーンショット型農林水産研究開発事業紹介ページ(生研支援センター)
プロジェクト・マネージャー
小池 聡(北海道大学)
牛からのメタン削減は地球と食糧危機を救う
牛の消化管発酵で生じるメタンガスはゲップとして大気中へでていきますが、温暖化に寄与するばかりでなく、飼料エネルギーの損失となります。2050年までに、このげっぷメタンを80%削減し、温暖化抑止をはかるとともに、牛の乳肉生産効率を10%向上させます。同時にこれまで飼料に用いていた穀物を100%人類に回せるような家畜生産システムを構築し、世界に広めることで、人類の食糧危機救済に貢献します。
牛ルーメンマイクロバイオーム完全制御によるメタン80 %削減に向けた新たな家畜生産システムの実現
背景 (メタン削減はなぜ必要か?)
ムーンショット目標5には、「生物機能をフル活用し完全資源循環型の食料生産システムを開発する」とうたわれています。本課題では、牛の機能、とくにルーメンと呼ばれる第一胃に共生する微生物群(マイクロバイオーム)機能の最適化・完全制御をはかります。すなわち、微生物発酵で生じるメタンは温暖化ガスであるばかりでなく、飼料エネルギーの損失でもあります。発酵の制御を通して、メタンを最小化しエネルギーを乳肉生産に振り分ければ、温暖化緩和と家畜生産向上の両立につながります。
研究内容 (メタンをどうやって削減するか?)
本プロジェクトでは、牛からのメタンを最小化する個体別飼養管理システムの開発に挑戦します。まず、メタンを強力に抑制する飼料や微生物相をメタン最小化に導くプロ・プレバイオティクスを新たに開発します。これらの効能を、ルーメン内に留置し発酵状況をリアルタイムで体外へ発信する新規デバイス(スマートピル)により評価する一方、受信した牛個体別発酵データをAI解析を通した精密給餌プログラムの提案につなげます。すなわち、個体別にルーメンマイクロバイオームと動物栄養を制御・管理できる未来型の飼養管理システムを確立・普及拡大させることで、メタン削減と生産性向上の世界的展開をはかります。
メタン削減資材は北大、帯畜大、道総研酪農試、および科学飼料協会が科学的な探索と飼料化を、マイクロバイオームは農研機構畜産部門が制御戦略を、スマートピルは東大、物材研が技術革新を、各々担える強い研究・技術化基盤を有しています。
2030年までのKPI
2030年までに、ルーメンのマイクロバイオームを制御しメタンを低減する資材と、ルーメン内環境(VFA等)が常時モニタリング可能な測定装置(ルーメンスマートピル)を開発します。ピルのデータを基にAI解析を介した牛個体別給餌法の提案を開始するとともに、新規開発したマイクロバイオーム制御・メタン低減資材を、個体別プログラムに基づき給与し、牛からのメタン発生を25%削減します。
2021年度中に、①マイクロバイオーム制御資材候補の探索と有用性の検証、②スマートピルの基幹技術であるVFA総量の測定センサの開発を行い、提案の実現可能性を検証します。
主な研究者
PM(project manager)
全課題総括
小池 聡
北海道大学・教授
PI(principal investigator)
サブ課題1責任者
三森 眞琴
農研機構畜産研究部門・所長
サブ課題2責任者
伊藤 寿浩
東京大学・教授
サブ課題3責任者
西田 武弘
帯広畜産大学・教授
研究担当機関
北海道大学/農研機構畜産研究部門/東京大学/名古屋大学/JA全農飼料畜産中央研/物質・材料研究機構/農研機構農業ロボティクス研/産総研センシングシステム研/農研機構動物衛生研/帯広畜産大学/道総研構酪農試/農研機構農業情報研
協力機関
日本科学飼料協会/扶桑コーポレーション/北海道農政部/エス・ディー・エス バイオテック
連絡先
yutasuzu@agr.hokudai.ac.jp