2021年9月10日版(2021年11月16日更新)
ムーンショット型農林水産研究開発事業
「牛ルーメンマイクロバイオーム完全制御によるメタン80%削減に向けた新たな家畜生産システムの実現」
シンポジウム: 牛の生産性向上とメタン抑制の両立の実現に向けて
趣旨
ムーンショット目標5では、「2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ、ムダのない持続的な食料供給産業を創出」の実現が目的となっています。この目的を達成するため、農林水産省では「ムーンショット型農林水産研究開発事業」を実施しております。私たちは、本事業で開発する「食料供給の拡大と地球環境保全を両立する食糧生産システム」において、研究開発プロジェクト「牛ルーメンマイクロバイオーム完全制御によるメタン80%削減に向けた新たな家畜生産システムの実現」に取り組んでいます。このプロジェクトでは、牛などの反芻動物に特徴的な消化器官であり、草食を支える最も重要な器官でもあるルーメンの機能を徹底的に解明し、人類と競合しない飼料資源を最大限に活用することによる、無理・無駄のない畜産物の増産と大幅なメタン抑制を目指しています。
この度、本プロジェクトの目指す社会や、研究開発の狙いと内容を広く紹介するシンポジウムを開催します。
開催概要
- 日時:2021年10月7日(木)13:00 ~16:00
- 形式:オンライン方式(300名規模)
- 主催:ムーンショット型農林水産研究開発事業:「牛ルーメンマイクロバイオーム完全制御によるメタン80%削減に向けた新たな家畜生産システムの実現」(牛メタン削減コンソーシアム)
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共催:生物系特定産業技術研究支援センター
国立大学法人北海道大学
農研機構畜産研究部門
一般社団法人日本科学飼料協会
プログラム
1. 開催挨拶
- 北海道大学 教授 小林 泰男
2. 挨拶
- 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 理事長 久間 和生
- 国立研究開発法人 物質・材料研究機構 理事 花方 信孝
3. 講演
- ムーンショット目標5の達成に向けて
ムーンショット型農林水産研究開発事業プログラムディレクター(PD)
東京農工大学 学長 千葉 一裕
- プロジェクト:牛ルーメンマイクロバイオーム完全制御によるメタン80%削減に向けた新たな家畜生産システムの実現
ムーンショット型農林水産研究開発事業プログラムマネージャー(PM)
北海道大学 教授 小林 泰男 - 乳牛の生産性向上とメタン抑制
元東北大教授 寺田 文典
プロジェクト課題での取り組み
- 乳牛のメタン抑制に向けたルーメン微生物研究
農研機構 真貝 拓三 - 新たなルーメン発酵モニタリングシステム
物質・材料研究機構 副拠点長 一ノ瀬 泉 - 飼料メーカーから牛メタン抑制に期待するもの
日本科学飼料協会 理事長 竹中 昭雄
4. 期待のメッセージ
- 海外からの期待
駐日アメリカ合衆国大使館 農務官 Zeke M Spears
駐日オランダ王国大使館 農務参事官 Denise Lutz
タイ王国 カセサート大学 教授 Suriya Sawanon - 行政からの期待
農林水産省農林水産技術会議事務局 研究調整官 松本 光史 - 産業界からの期待
全農飼料畜産中央研究所 所長 米倉 浩司 - 畜産関係機関からの期待
中央畜産会 副会長 姫田 尚
5. 総括
- 北海道大学 教授 小林 泰男
6. 閉会
事務局
農業・食品産業技術総合研究機構 畜産研究部門
乳牛精密管理研究領域
佐々木 修
Email: sasa1@affrc.go.jp
TEL: 029-838-8654/FAX: 029-838-8606
〒305-0901 茨城県つくば市池の台2
国内シンポジウムへの参加登録はこちら
https://tkp-jp.zoom.us/webinar/register/WN_-GORoHdbSTGnyVtrXkClPQ (終了しました)
シンポジウム質問へのご回答(Q&A)
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Q: プロピオン酸の促進によって、ルーメン内のphが低下し、有用な微生物も減少してしまうと思うのですが、それを抑える方法はあるのでしょうか?または、phの低下は無視できるのでしょうか?
A: 濃厚飼料多給による急激なルーメンpHの低下に伴い微生物が減少することはご指摘のとおりです。そのため、この研究では、ルーメン発酵でプロピオン酸産生を促進させる技術を目指しており、プロピオン酸生成促進に関する微生物の特性や機能を最大化できる条件を見出し、それを実現できる飼料給与技術を開発します。ルーメン内での揮発性脂肪酸の構成比を変化させることで、揮発性脂肪酸の産生量の増大も予想されますが、pH低下を起こさない程度と見込んでおります。一方で、同じ飼料を採食していても、アシドーシスになる・ならないの個体差がみられますので、プロピオン酸産生が促進しても飼料の利用性や消化性が低下しない牛を選抜する必要性があるのかもしれません。
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Q: メタン削減作用を有する資材を栄養成分の有効利用というジャンルで飼料添加物として登録することにどのような不都合がありますか。
現在の飼料安全法上、メタンやアンモニアの排出軽減に貢献する添加物のカテゴリーが存在しないので、新たな改正が必要であると課題を挙げておられました。折角の添加剤も現法の壁で導入が出来ないようなことがあってはならないと考えます。具体的に改正の可能性は?またはそのための協議を始められているのでしょうか?
成果の活用について、「機能性飼料」という新しい飼料範疇を設定するのか、ルーメンメタン抑制作用の新たな「飼料添加物」の範疇を増やすのか、飼料業界はどちらを希望しているのですか。それにより申請の作業の内容が異なり、準備資料や試験研究も異なると思います。A: ご指摘のように、飼料安全法では、飼料添加物の用途として、1.飼料品質の低下の予防、2.飼料の栄養成分その他の有効成分の補給、3.飼料が含有している栄養成分の有効な利用の促進が記載されています。この課題で開発するメタン抑制剤は生産性の向上も視野に入れていますので、飼料が含有している栄養成分の有効な利用の促進でも読み取れるのではないかと考えており、不都合はないと考えております。今後、飼料添加物の分類にメタン抑制など環境負荷軽減効果といった新たなカテゴリーを設ける必要があるかについては、農林水産省消費・安全局と協議が必要と考えているところです。
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Q: 50年後には、センサーによるモニタリングによりオーダーメード給餌につなげるということですが、VFAだけでなく、窒素関係たとえばアンモニアのモニタリングも同時に行うようなことはできますでしょうか。メタン削減が目標ではありますが、ウシの生産性という面では窒素も重要なのではないかと思いましたのでお伺いします。
A: ご指摘のように、ルーメン微生物合成量を高めるためにはエネルギー供給だけでなく、アンモニアの産生パターンの把握も重要と考えています。現在販売されているルーメンスマートピルのほとんどはpHや温度が測定できるものですが、アンモニウムイオンがオプションで測定できるピルもあるようです。ルーメン中の気相アンモニアの検出は、pH的に簡単ではありませんが、リアルタイムでVFAやアンモニアの産生をモニタリングし、それを精密飼料給与に反映させることは、生産性の向上だけでなく、ふん尿中の窒素排せつといった環境問題にも大きく貢献できると考えます。
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Q: 既存のメタン抑制飼料として、リンゴ酸を使用されておりましたが、オレイン酸やリノール酸などの脂肪酸とリンゴ酸を比較した場合、どちらがメタン抑制により効果があるとお考えでしょうか?
A: 添加濃度や給与する飼料によってもメタン抑制効果は異なるため、一概に数値で示すことはできませんが、一般に脂肪酸添加によるメタン抑制は10~15%と言われています。そのため、同一条件でのメタン抑制率の比較が必要になりますが、リンゴ酸添加でのメタン抑制効果が20%程度となると、メタン抑制に関して効果が高いと考えます。
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Q: 今回紹介された研究プロジェクトは世界的にみた場合、先駆的なものと言えるのか。成果を国内だけでなく、地球規模で利用できるものであることが必要ではないでしょうか。
A: 本プロジェクトでは牛のメタンを80%削減し、生産性を10%向上させるといった世界的にも実現できていない高い目標を掲げております。そのため、ルーメン発酵、メタン産生、メタン抑制資材の関係を数理解析し、モデルを飼養管理に反映させる取り組みは少ないと考えています。また、ルーメンスマートピルの開発は、今まで困難であったルーメン発酵を明らかにしていく上で有用なツールになると考えます。これらの技術を組み合わせて、世界のそれぞれの品種や飼養形態に併せた生産性向上とメタン抑制の両立を可能とする飼養技術を展開できれば良いと考えているところです。
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Q: 穀物多給で肥育される肉牛においてのメタン排出削減のストラテジーについてもお教えください。
A: 肥育牛の増体性の向上や肥育期間の短縮で、生産物当たりのメタンが削減できます。また、肥育牛を粗飼料多給あるいは濃厚飼料多給条件下で、プロピオン酸増強菌を接種することでメタンが抑制されるとの知見もあります。肉用牛での生産性向上を図るためには、エネルギー源であるプロピオン酸の増強を図るとともに、品質に配慮しながら肥育期間の短縮などを組み合わせることが有効であると考えます。
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Q: 繊維消化にともなって、産生される代謝性水素の量は増えます。繊維消化の促進とメタン産生低減は両立できますでしょうか。
A: 繊維消化に伴う代謝性水素の処理については、受容体を増加させたり、プロピオン酸生成を高めることで、メタン生成への流れを低下させる方法、ならびにメタン菌自体を抑制する方法が考えられます。本プロジェクトでは代謝性水素のシンクを減らし、プロピオン酸生成を高めるとの視点で研究を進めているところです。
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Q: 肥育牛においてもメタン産生量とルーメン菌叢の関連について、研究がなされているのでしょうか。
A: 黒毛和種肥育牛のルーメン微生物については、北海道大学の小池聡先生が研究をされており、当プロジェクト研究に参画しておりますので、メタン削減との関係についての研究が進むことが期待されます。